Let's Use ひきだすにほんご! ~Examples of use~
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ブルガリア、ヴェリコ・タルノヴォ大学の日本語専攻では、グローバル化の進展に対応し、人材の国際的な流動化を円滑にするために必要な言語知識を習得する実践的な日本語科目に加え、2024年からは新科目が導入されました。その一つが「異文化コミュニケーション(Intercultural Communication)」です。
※本科目の設計と実践については、Acta Linguistica Asiatica誌、Vol. 15 No. 2 (2025) Fostering the Critical Perspective in Intercultural Competence: The Role of the L2 Japanese Teacherで詳しく報告しています。
本科目は、将来日本への留学や就職を希望する、日本語を第二専攻とする2年生を対象として開設されています。目的は、困難な状況に直面した際にも否定的にならず、Critical(批判的)な思考を持って、自分なりに、そして相手に違和感を与えない形で解決策を考えることです。授業構成は理論的側面と実践的側面の両方を含み、講義と演習が相互に補完し合う形で実施されています。本科目は全15回で構成され、各回の授業時間は90分です。授業では、言語形式や語彙についても扱う一方、重点は課題解決型学習やディスカッションなどのインタラクティブな活動を通して、学習者の批判的思考力を育成することに置かれています。今年度受講した学生は6名です。日本語のレベルはA2からB1です。教材の一つとしてドラマ『スアン日本へ行く!』を活用しています。
本学の学生の多くは、日本の大学に1年間留学した後、帰国してから、日本人学生に自ら積極的に話しかけて会話を始めることに困難を感じたと振り返っています。その結果、日本に長期間滞在したにもかかわらず、日本人学生と友人関係を築くことができなかった学生も少なくないようです。こうした課題に対応するため、本授業ではドラマの第5話「あの人と仲良くなりたい!」を主要教材として採用しました。
ビデオを視聴する前に、学生たちはペアで次の場面設定についてディスカッションをしました。「あなたは日本の大学に留学しています。日本人学生と留学生が参加する交流パーティーに招待されました。あなたの目標は、新しい友人をできるだけ多く作ることです。」(Fig.1参照)。
ディスカッションの後、各グループは、友達を作るためのストラテジーや考えをクラス全体で共有しました。さらに、学習者のクリティカル・シンキングを促すために、教師はそれぞれの意見の根拠について質問しました。
この段階では、学生の内容理解を促進するため、ビデオ視聴に先立ってエピソードに関連するキーワードや重要表現を導入しました。(Fig.2参照)
第5話では、ベトナム人のスアンが職場の同僚である日本人、すみれと仕事以外の話をして親しくなりたいと考えるものの、どのように話しかければよいかわからず悩む様子が描かれています。このエピソードでは、会話を始めるためのストラテジーとして、「共通の話題を見つけて話しかける」ことが提示されています。
スアンがどのように話しかければよいか悩んでいる場面で動画を一時停止し、学生たちはペアで「自分がスアンだったらどうするか」について話し合いました。その後、各ペアは各自が考えた方策をクラス全体で共有しました。発表されたストラテジーには、「相手を褒める」、「ランチに誘う」、「仕事上の相談を持ちかける」など、多様なものが見られました。視聴後、学生たちは以下の問いについてクラス全体で議論し、確認しました。
ストーリーの内容が理解できましたか。
スアンはどのようなことに悩んでいましたか。
スアンはその悩みを解決することができましたか。
このエピソードの中で興味深いと感じた点はありましたか。
ブルガリアの文化や習慣と比べて、異なると感じた点はありましたか。
議論の内容からは、学習者の意見に二つの傾向が見られました。第一に、国籍にとらわれず、一人の人間として相手と接することが、より率直で円滑なコミュニケーションにつながるという考えです。第二に、それぞれの国には固有の言語行動や文化的規範が存在するため、それらに関する知識を身につけることが、円滑な異文化コミュニケーションを実現するための重要な鍵になるという認識です。
授業には日本への留学経験を持つ先輩学生をゲストとして招き、学生たちは直接質問をしたり話しかけたりしながら、日本で友人関係を築くためのアドバイスを受けました。先輩学生からは、「失敗や日本語の間違いを恐れず、積極的に話しかけること」、「サークル活動やアルバイトを始めること」、「地域のイベントに積極的に参加すること」、「ホームステイを経験してみること」などのアドバイスが挙げられました。
授業後、学生にはリフレクションシート(資料1参照)の記入を課しました。記入は、ブルガリア語、日本語、英語のいずれでもよいことにしました。リフレクションシートは、学習成果の評価およびポートフォリオ作成のために活用されるとともに、学習者の既有知識と授業を通して得た学びを明確に区別するための手段として用いられました。また、その内容を分析することで、教師は学習者の理解の不足している点を把握し、適切なフィードバックを提供するとともに、当初計画していた明示的指導に加えて、学習者のニーズに応じた指導を行うための資料として活用しました。
本授業で回収したリフレクションシートには、以下のような学生の感想が書いてありました。
日本やブルガリアといった国の違いにかかわらず、相手を褒めることは会話を始めるための有効なストラテジーであると思います。
環境や自分の日本語能力を過度に気にせず、積極的に話しかけることが重要であると感じました。
アルバイト先やサークル活動など、大学外のコミュニティにも参加した方がよいと思う。その方が友人を作りやすく、言語や文化についても多くのことを学ぶことができます。
自分の考えだけで判断するのではなく、相手の気持ちや立場にも配慮しながら、適切に言動を調整することが大切だと思います。
毎日、さまざまな出会いや交流の機会があると思うので、まずはそうしたチャンスを見逃さないことが大切だと思います。
『スアン日本へ行く!』を異文化間能力のクリティカルな側面を育成するための授業で活用した結果、本教材は非常に効果的であると考えられました。特に、登場人物が直面する場面において学習者同士でストラテジーを考えたり、互いの意見を共有し、それを受け入れながら議論を深めたりする活動は、異文化間能力の批判的側面の育成を支援する上で重要な役割を果たしていると考えられます。
また、最近は、Z世代の学習者に日本語を教えることがますます大きな課題であると感じています。なぜなら、彼らはスマートフォンなどのデジタル機器によって注意が分散されやすく、それに対応するには、より動的で積極的な参加を促す学習環境が必要だからです。
今回紹介した『スアン日本へ行く!』を視聴し、その内容について討議するという授業の流れは、学習者の注意を惹き、主体的な参加を促す上で有効な授業デザインであることが示唆されました。
Vassileva, Magdalena (2025): “Fostering the Critical Perspective in Intercultural Competence: The Role of the L2 Japanese Teacher”. In: Acta Linguistica Asiatica, Vol. 15 No. 2. Pp. 87–122. https://doi.org/10.4312/ala.15.2.87-121
(マグダレナ・ヴァシレヴァ ヴェリコ・タルノヴォ大学准教授(ブルガリア)
Magdalena Vassileva, Associate Professor, PhD.,
“St. Cyril and St. Methodius” University of Veliko Tarnovo, Bulgaria、
2011年度 国際交流基金日本語国際センター 上級研修参加者)
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