Let's Use ひきだすにほんご! ~Examples of use~
他の実践例を見る
国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(JFVN)では、ドラマ「スアン日本へ行く!」を使って、ストラテジーに注目した会話の授業をしました。話すことに自信がない、もっと話せるようになりたいという学習者のニーズに応えて、ストラテジーの面白さ、便利さを学ぶだけでなく、「実際に、話すときにストラテジーを使えるようになろう!」そして「話すことに自信をもとう!」というのがこのコースのねらいです。
このドラマの舞台はスアンが働く日本ですが、授業を計画する際、まず、ベトナムの学習者が使う機会がありそうなストラテジーが登場するエピソードを取り上げました。次に、ドラマで扱われたストラテジーと関係づけて、目標となる「話す活動」のCan-doを設定しました。そして「話す活動」では、学習者が話したくなるような身近な場面を設定しました。授業では、「会話で困ったらスアンのように、ストラテジーを使ってみよう」と学習者を促し、少しでも話すことへの自信を持ってもらえるようにしました。
6回の授業で扱ったドラマのエピソードとストラテジー、話す活動は次の表のとおりです。
タイトル | ストラテジー | ストラテジー例 | 話す活動のCan-do(B1) | 話す活動 | |
---|---|---|---|---|---|
1 | 第1話 「夢への第一歩」 |
質問をして相手に話してもらう | 大宮ってどんなところですか? | 初めて会った人に自分から話しかけて、共通の話題を見つけて、ある程度会話を続けることができる。 | イベントで知り合った日本人と、楽しく会話を続ける。 |
2 | 第2話「もう一度聞く勇気」 | 効率的に聞き返す | 502号室は12時に…なんですか? | ベトナム語の方言について、例をあげながら、その特徴や北部表現との違いなどを簡単に説明できる。 | ベトナムの方言について、日本人に簡単に説明する。 |
3 | 第4話「理想の部屋に住みたい」 | 思い出せないところを「なんとか」に置き換える | なんとか棒 | 人から聞いた情報をもとに、旅行先でしたいことや食べたいものなどについて、具体的に話すことができる。 | 日本人から観光地の紹介を聞いて、そこでしてみたいことを話す。 |
4 | 第7話「話は終わっていないのに…」 | 「今考えている」ということを相手に伝える | えーと、そうですね… | 食事中などに、職場の同僚などに質問されたとき、身近なことであれば、自分が言いたいことを伝えることができる。 | 昼休みの同僚との会話で、考える時間を作りながら雑談での質問に答える。 |
5 | 第8話「確認しながらのチャレンジ」 | 相手に確認しながら話す | 今言ったこと、わかりますか? | 自分の好きな映画作品(映画・ドラマ・アニメなど)について、好きな理由を ある程度くわしく話すことができる。 | 友人と映画やアニメなどについて、好きな理由を話す。 |
6 | 第9話「「聞いているよ!」を伝えよう」 | 効果的にあいづちを打つ | へぇ、そうなんですか。 | 友人に、自分の最近の様子や出来事について、何があったか、どうだったかを、ある程度くわしく話すことができる。 | 友人と最近の出来事を話し、相手はあいづちを打ちながら聞く。 |
※ 第2回の授業では、ドラマに登場した方言から、ベトナムの方言について話す活動を行った。
90分の授業は、次の流れで行いました。
【ドラマ前半:スアンが問題に直面するまで】
①ドラマの前半部分を「日本語字幕あり」で見て、「内容理解のための質問」 に答える
②ドラマの前半部分を「ベトナム語字幕付き」でもう一度見て、ストーリーを確認する
③スアンの立場になって、コミュニケーションの問題を解決する方法を考える
【ドラマ後半:スアンの問題解決行動】
④スアンの問題解決行動と、使ったストラテジーを確認する
→ 「本日のストラテジー」(やんすの解説)からストラテジーの理解を深める
・スアンがストラテジーを使う会話をシャドーイングする
・ストラテジーを使う練習(ロールプレイ)をする
・グループまたはペアで話す活動を行う
・ふりかえり・Can-doチェック
ここでは、第4話「理想の部屋に住みたい」を使った授業を紹介します(学習シート 参照)。
ストーリーの舞台は100円ショップ。スアンは友達の部屋で見た「つっぱり棒」を探していますが、見つかりません。店員に声をかけられたのですが、どうしても名前が思い出せません。ここで登場するのが、思い出せないところを「なんとか」に置き換えるというストラテジーです。
「1ドラマ視聴」の前半では、ストーリーをみんなで確認したあと、ほしい物の名前が思い出せなくて困っているスアンについて、「あなただったら、どうしますか?」と問いかけました(スライド1参照)。すると、「インターネットで写真を見つけて、店員に見せます」「簡単なことばで説明します」など、学習者から次々とアイディアが出てきました。臨場感があり、スアンになって問題解決を考えられるのがビデオ教材のいいところだと言えるでしょう。ドラマ後半の視聴で、スアンが「なんとか棒」と言ったことがわかると、「ベトナム語にも「なんとか」のような表現がある」「人や場所の名前を忘れたときも使えて便利!」という反応でした。
「2ストラテジー練習」では、シャドーイングをしたあと、ドラマと同じ買い物の場面で、ほしいものがあるが名前が思い出せないという設定で、「なんとか」を使ってみる練習をしました(スライド2参照)。
最後の「3話す活動」では、「日本人から観光地の紹介を聞いて、そこでしてみたいことを話す」という活動を行いました。講師から箱根の紹介をし、そのあとで、箱根旅行に行ったらしたいことをグループで自由に話し合いました(スライド3、4参照)。ポイントは、思い出せないことばがあっても諦めないで、「なんとか」を使って話してみることです。
たとえば、あるグループでは、「なんとかたまごが食べたいです」「ああ、黒たまご!」や「なんとかプールに行きたいです」「ワインプール!」というやりとりが見られました。思い出せないことばがあっても「なんとか」を使って会話を続けることができていました。
話したあとのふりかえりで、ストラテジー使用について「「なんとか」を使えば、ことばを忘れても言いたいことを伝えられました」というコメントがあり、早速ストラテジーを使いこなしていることがわかりました。そのあと、授業の最後にCan-doチェックシート を使って自己評価をしました。
クラスではドラマを見ながら、スアンの困難や失敗に共感する学習者の様子が見られました。また、スアンとやんすのやり取りを通じて、話すのが難しいことがあっても、あきらめないで工夫することの大切さに気づいたようでした。ドラマ教材だからこそ、スアンの行動を疑似体験しながらコミュニケーションについて考えることができるのだと思います。
日本人と会話するときの、新しい反応の仕方を学ぶ機会があった。
このため、学習者は自信を持ち、もっと話す機会を得て、日本語の会話力が向上できる。
いろいろなストラテジーが勉強になった。
コースの終了後、自信を持って日本語を話せるようになった。
日本人と話ができます。もう緊張しません。
コース終了後のふりかえり・アンケートでは、「ドラマが面白かった!」という声はもちろん、「ストラテジーによって、より話す自信がついた!」というコメントが見られました。はじめは緊張してなかなか話せなかった学習者も、回を重ねるごとにストラテジーを使ってみたり、グループで積極的に発言したりするようになった姿が印象的でした。この授業を通して、学習者がより深いストラテジーへの理解と、日本語を話す自信を得ることができたのではないかと思います。
藤長かおる, 土屋仁美, 藤村春菜(2025)「ストラテジーに注目した会話授業の実践―ドラマ「スアン日本へ行く!」を使って―」『国際交流基金日本語教育論集』21, pp.61-72.
(土屋仁美・藤村春菜・藤長かおる/
国際交流基金ベトナム日本文化交流センター)
Sorry, this page is only available in Japanese.
このページは日本語のみでご覧いただけます