Let's Use ひきだすにほんご! ~Examples of use~
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国際交流基金日本語国際センターでは、海外で日本語を教える先生方を日本へ招聘する教師研修を行っています。そのうち35歳以下の若手の先生方を対象にした海外日本語教師基礎研修の選択科目で「会話ストラテジートレーニング」と題し、「ひきだすにほんご」の「スアン日本へ行く!」を活用した授業を行いました。この選択科目では、B1.2~B2レベルを日本語力の目安とし、ストラテジーを意識的に使用する態度の育成と日本語運用力の向上を目標としました。クラスのメンバーはアジア・中南米・東欧など11か国から来た12名です。
6か月という長期間の研修を行う海外日本語教師基礎研修では、交流や協働を研修の目標に取り入れています。そのため、研修中さまざまなところで研修参加者同士が交流し、協働で課題を行う経験をします。そうした交流や協働が求められる場面で生じるコミュニケーションに能動的にたずさわり、まわりの人にも配慮しながらコミュニケーションを行う能力を伸ばすことも、この科目のねらいでした。
授業は1回100分、全8回のコースでした。8回のうち、前半4回が「雑談」、後半4回が「話し合い」の言語活動をテーマとし、「スアン日本へ行く!」から、それぞれ雑談に必要となるストラテジー、話し合いに必要となるストラテジーを3つずつ取りあげて学びました。この科目では、「ひきだすにほんご」がメインターゲットとするB1レベルより少し高い日本語力(B1.2~B2)を持つ研修参加者を対象とすることから、各回で取り上げるストラテジーについて一歩進んだ理解ができるような活動を取り入れるよう配慮しました。また、各回終了後に、その日に「授業を通して考えたこと・気づいたこと」「まだ気になっていること(わからないこと)」についてふり返り、シートに記入してもらいました。
全8回で取り上げたストラテジーは以下のとおりです。
雑談のストラテジー | 話し合いのストラテジー | ||
---|---|---|---|
1 | 会話を続けるためのストラテジー #01質問をして相手に話してもらう |
5 | ほかの人を話し合いに誘い入れるストラテジー #15意見を聞いて話し合いに誘い入れる |
2 | 相手に気持ちよく話してもらうためのストラテジー #09効果的にあいづちを打つ |
6 | 相手に配慮しつつ反論するストラテジー #17相手の意見を認めてから反対意見を言う |
3 | 会話をうまく終わらせるためのストラテジー #12会話を終わらせたいというサインを出す |
7 | 話し合いを前に進めるストラテジー #23今出ている意見の要点を確認する |
4 | 前半のまとめ わたしのストラテジー発表会 |
8 | 後半のまとめ わたしのストラテジー実践チャレンジ |
授業は大まかに、「前回の復習」、「ストラテジーの学習」、「発展活動」「今日のひとこと」の4つのパートで構成しました。下記で、第3回「#12会話を終わらせたいというサインを出す」を取りあげた授業の流れを例として示します。
「スアン日本へ行く!」第12話より
≪第3回授業の流れ≫
取りあげたストラテジー:#12会話を終わらせたいというサインを出す
「1.前回の復習」では、授業の終わりに毎回書いてもらうふり返りシートの記述から、クラス全体で共有したり話し合ったりするといいと思われるものを1~2つ取り上げました。例えば、「#01質問をして相手に話してもらう」ストラテジーを学んだときには、「(質問をして相手に話してもらおうとしても、)相手の返事が話を続けたくなさそうなものだったらどうするか」というコメントをもとに、上記の第3回では「#09効果的にあいづちを打つ」ストラテジーについて、「相手の話していることがよくわからなくてもあいづちを打つべきか」というコメントをもとに、ストラテジー使用のその先を考えたり、ストラテジー使用の目的をふり返ったりしました。また、「2.ストラテジーの学習」では、ドラマを見てドラマの内容やスアンが使ったストラテジーについて確認しました。
この授業で特徴的なのは、「3.発展活動」です。今回ご紹介した第3回の授業では、(ア)の活動で下のスライドを提示し、ディスカッションをしてもらいました。また、(ウ)では、ダウンロードコンテンツにある「スアン日本へ行く!」のスクリプトから、#12のストラテジーを使っている該当箇所を抜き出し、会話の終わらせ方の流れを分析し、どのような特徴があるかを考えてもらう活動をしました。また、(エ)のロールプレイでは、(ウ)で分析した会話の終わらせ方を参考に、「話を続ける人」と「会話を終わらせたい人」に分かれて、会話を終わらせるストラテジーを実際に使ってみる活動をしました。
第3回の授業のあとに書いてもらったふり返りシートには、「会話を続けるためのストラテジーが必要である以外に、会話を終わらせるストラテジーも必要」と授業で取り上げたストラテジーの大切さについて理解を示すコメントが見られました。また、「聞き手として相手のとの会話を終わらせたいというサインを出すのが大事だけど、話し手も相手の様子、反応、サインに気づくのも大事だ。」と学んだことからさらに発展的な気づきに至ったことがわかるコメントもありました。
ちなみに、「4.今日のひとこと」は授業のおまけのようなコーナーです。「スアン日本へ行く!」はドラマ形式のため、自然で少し気の利いた表現がたくさん出てきます。そうした表現を1回の授業につき一つ取り上げて紹介し、日々のコミュニケーションに取り入れてもらえるようにしました。第3回の授業では、スアンの職場の先輩「須藤」の口癖「ですよね~。」を取りあげました。ほかにも#01を視聴したときは、スアンの上司「太田」の「肩の力を抜いてリラックス!」を、#17を視聴したときは、ホテルの常連客「御法川」のセリフから「なんてがんばり屋さんなんだ!」を取りあげました。
そのほか、第4回では「わたしのストラテジー発表会」と銘打ち、研修参加者が日頃使っているストラテジーを会話形式で紹介し、その効果について説明しました。また、コースの最終回である第8回では「わたしのストラテジー実践チャレンジ」と銘打ち、ディスカッションの中で学んだストラテジーを使って効果的にディスカッションを進め、また、それらを自身でふり返って記述する取り組みを行いました。これらを通して、研修参加者が自らのコミュニケーション行動を意識化し、目的に合わせて戦略的に振る舞うことを意識しました。
ふり返りシートからは、各授業で紹介したストラテジーに関する気づきのほか、ストラテジーそのもの、コミュニケーションそのもの、そして、自分のコミュニケーションスタイルの変化についての気づきなども見られました。
「課題によっていろいろなストラテジーがあることがわかったが、相手が違えば、違うストラテジーが必要になる。」
「簡単にコミュニケーションが取れる人は全然何もしていないように見えますが、そういうわけではないと思います。その人も、自分の中で話が進むように、いろいろ考えていると思います。」
「以前は話し合いのとき、意見がなかったら黙ったままほかの人の話を聞いていたが、今は少しでも発言するようになりました。」
こうしたコメントからもわかるように、参加者は授業でストラテジーを学ぶだけではなく、その理解を深め、ストラテジーを考えることを通して、コミュニケーションに能動的に携わることの大切さを理解してくれたと思います。
「スアン日本へ行く!」はドラマ形式の動画教材です。想定したレベルはB1とされていますが、今回のようにB1後半からB2レベルの学習者を対象とすることで、ストラテジーをさらに深く理解したり、自分のコミュニケーションスタイルに対してより自覚的になったり、学んだストラテジーを実践にうまく活かしたりすることができるようになると思います。みなさんも、ぜひ、さまざまなバックグラウンドの学習者を対象に「ひきだすにほんご」を活用してみてください。
(菊岡 由夏/ケルン日本文化会館日本語教育アドバイザー、元日本語国際センター日本語教育専門員)
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