使ってみよう!ひきだすにほんご 〜実践共有のコーナー〜

Let's Use ひきだすにほんご! ~Examples of use~

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日本/日本語国際センターでの実践例

ストラテジーを使って積極的に!: 教師研修での活用例

ストラテジーを使って積極的に!: 教師研修での活用例
クラス紹介

 国際交流基金日本語国際センターでは、海外で日本語を教える先生方を日本へ招聘する教師研修を行っています。今回は、そのうち35歳以下の若手の先生方を対象にした「海外日本語教師基礎研修」の2クラスで授業を行いました。2クラスはアジア・中東・南米の13か国から来た13名からなるクラスで、JF日本語教育スタンダードのB1レベルを目標とするクラスです。今回は「映像視聴」という全12回(1回は50分×2コマ)の授業のうち、最後の4回を「映像視聴プラス」と題し、「ひきだすにほんご」を使った授業を行いました。

こんなふうに使いました!

 4回の授業では、「ひきだすにほんご」のすべてのコーナーを扱いましたが、ここでは、「スアン日本へ行く!」を使った部分のみ、ご紹介します。ドラマ1本につき要する時間は40分くらいです。授業の目標は「スアン日本へ行く!」を視聴して、主要な部分を理解し、学んだストラテジーを実際のコミュニケーションに役立てることです。大体以下のような流れで授業を行いました。

≪授業の流れ≫

  • 「スアン日本へ行く!」の登場人物とあらすじを紹介する
  • ドラマ視聴前半:スアンの課題が明らかになったところで映像を止め、①スアンはどんなことに困っているか、②自分がスアンならどうするかをペア・グループで話し合い、全体で意見を共有する
  • ドラマ視聴後半:ドラマを最後まで見て、スアンがどのように課題を解決したかをペア・グループで話し合い、全体で確認する
  • 解説視聴:解説を見て、スアンが使ったストラテジー、効果や注意点などを確認する
  • ストラテジーを使う練習をする
  • 宿題:自己評価とふり返りシートの記入(翌週の授業の冒頭でペア・グループで記入内容を共有する)

「スアン日本へ行く!」についての参加者の反応

 この授業については、授業終了後にアンケートを取りましたが、とても評価が高かったです。その理由としては、まず、ドラマとしてのおもしろさが挙げられます。初めて日本に来て、不安と期待が入り混じるスアンに自分を重ねて共感を覚えたり、太田さんや御法川さんの演技に笑ったり、麗とスアンのやりとりに心ときめいたり…。今までの日本語学習番組にはない、ドラマとしてのおもしろさが大きな魅力となっているようです。ドラマの中で取り上げているストラテジーに対しての評価も高く、自分の会話の中で役に立つ、使ってみたいと答える人がたくさんいました。「実際のコミュニケ―ションに近いトピックが多くて、日本の生活にぴったりで楽しかった」というコメントもありました。

 ストラテジーを使う練習で盛り上がったのは、第12話の「会話を気持ちよく終わらせろ」です。自分から会話を終わらせないといけないとき、どうしたらいいのか、なかなか難しいですよね。授業では、「時計を何度も見て急いでいるということを示す」、「がまんして聞く」など、みなさんもなかなか苦労しているということがわかりました。ドラマを見た後で、友だち同士、自分と先生という設定で会話をしてもらい、スアンのように「あっ、そろそろ~」と言い方やタイミングに気を付けて会話を終わらせることができるかどうかを、ペアでロールプレイしてもらいました。この授業の後では、「言い方、表情もだいじ」、「ゆっくり理由を言いながら相手の反応も見る」など、どのように伝えるかについても気づきが起こっており、とても有意義な授業となりました。

  • 「スアン日本へ行く!」第12話より
  • 「スアン日本へ行く!」第12話より

「スアン日本へ行く!」第12話より


 このクラスの参加者は日本語教師なので、「ビデオを見て、先生が私たちにビデオの内容について考えさせて、ペアで意見交換できて、本当によかったと思います」と、授業のやり方に対しても評価するコメントがありました。「ひきだすにほんご」を使って授業をしてみたいという人も多くいましたので、自分の国に帰って、自分の学習者に合うような形で「ひきだすにほんご」を活用した授業をしてもらえれば、うれしいです。

最後に

 授業の最後の回では、「津々浦々2クラス」と題して、「日本や日本語との出合い」や「おすすめのストラテジー」などを書いてもらうタスクを課しました。参加者の中に、第3話の「自分が知っていることばで言えることを言う」というストラテジーを紹介している人がいました。その人は、「知らない言葉が多いし、文法も難しいから、上手に意見や自分の気持ちを伝えることができないと思って、何も言いませんでした」と今までの自分をふり返り、「このストラテジーで、少しだけ言うのは、何も言わないよりいいです。自分のことばでいい、もしかして知っている日本語で言いたいことはばっちり言えないかもしれませんが、言えることを言うことは大切です」と、番組を見て、自分の考えが変わったことを書いてくれていました。「ひきだすにほんご」を通して、一人でも多くの日本語学習者の人に、「自分のもっている力を活かして、積極的にコミュニケーションをとってみよう!」というメッセージを届けることができたら、うれしいです。

研修参加者の先生方とともに
研修参加者の先生方とともに

(本田 雅美/日本語国際センター 専任講師)

※この記事は、7月1日に実施したオンラインセミナー「使ってみよう!ひきだすにほんご」の第2部「『ひきだすにほんご』こう使ってみました。」の発表をレポートにしたものです。